動物愛護のひとの行き過ぎた行動
先日、友人と「自分の正義を信じ込んでしまっている人たちは厄介だ」という話の流れで、ある話をしたところ、大爆笑された。当時は色々なことを抱えていてとても笑える状況ではなく、問題の人物が「どこの誰なのか」ということもきちんと確認してはいない。なので、追跡不能な話だということをあらかじめお断りしておく。でも確かにあったことだ。
順を追って話そう。
2006年、reset-NはマルセイユのThéâtre de Ajmerと国際共同制作に取り組んでいた。そこで共同演出のフランクが「ネズミを二匹、舞台の上空を走り回らせたい」といいだした。フランクは過去にもエルヴェ・ギベールの『楽園』で大量の蟹を走らせたりしている。今回は「二人の演出家の象徴として舞台上に存在させたい」という演出意図であった。それで、ペット屋さんにハツカネズミを買いにいった。王子のドキドキペットくん。
期待通り、ずいぶんたくさんのネズミがいた。一通り見て回って、フランクは「もっと大きいネズミがいい」といいだした。店員さんにきいてみると「いますよ」ということで、かなり大きい二匹が奥から連れてこられた。
白いほうがフランク、黒いほうがタカヒロという名前になり、それはそれは大事に世話をされた。女優二人が「あたしたちもあのくらい大事にしてもらいたい」と嫌味をいいだしたほどだった。
本番中、二匹は全然走り回ってくれなかった。安全で暖かいとじっと座り込んでしまうんですね。とうてい若くない年齢だということもあった筈だ。人間の女優二名が大奮闘している上でのんびりしているという点では、演出家二人を象徴することに成功したといえなくもない結果だった。
さて、終演後。私は別の公演で京都に向かわなくてはならず、それが済んだら今度はマルセイユに1年いかなくてはいけないのだった。とてもじゃないが連れていけない。公演関係者のなかから引き取ってくれるひとを見つけることにも失敗し、私は里親募集をしているネットの幾つかに書き込みをして新しい飼い主を捜した。結局mixiで引き取り手が見つかり、幡ヶ谷駅でフランクとタカヒロは引き取られていった。私の手元にはお礼の缶ビールが残った。フランクとタカヒロは山田と斎藤という新しい名前を授かった。新しい飼い主が吉田戦車の大ファンだったせいだ。人間っぽい名前をつけられる運命だったんだなあ。ときどき日記を見てみたがとてもかわいがられている様子だった。
ペット屋ではきっと、もう売り物にならないという理由で奥にいたのだろう。誰だってマウスを飼いたいひとは小さくて元気で長生きしそうなのを買うに決まっている。寿命を待っている感じだったのだと思う。
マルセイユに1年、というのは文化庁の新進芸術家海外留学制度を利用した滞在だった。宮城聰さんの推薦文とともに研修計画を提出し、面接を突破して権利を得たのである。その文化庁の担当者から突然電話がかかってきたのであった。
「夏井さんが舞台で動物を虐待していたという抗議がきています」
「えっ」
これが事件である。前置きが長くて申し訳ない。文化庁の担当者によると、抗議の内容は次のとおりであった。
- reset-Nは最期まで飼える見込みもないのにネズミを購入した
- そのネズミを舞台のために虐待した
- reset-Nは過去にも動物の虐待で東京都から警告を受けている団体である
ううむ。1だけが事実。しかし、大切にかわいがってくれる飼い主を絶対に探しだそうという決意ではいたし、それを成し遂げたのだから文句をいわれる筋合いはない。我々が買わなければペット屋の奥でひっそりと死んでいた二匹だったのだ。
2は事実無根。暖かい場所に居てもらっていただけ。実際に”Adagios”を見ていればこんな抗議は出た筈がない。
3についてもまったく事実無し。だいたい、これまで舞台上で動物を出したことなんてなかったんだから。
文化庁の担当者は3の事実がないことを東京都に確認して、根拠のない中傷であることをすでに見抜いていた。デマゴギーとしては、すぐに嘘だとバレる3が致命的だったわけだ。いってはなんだが、バカで助かった。
「一応こんなことがあったということだけお伝えしておきます」
「ありがとうございます」
ううむ。しかし、文化庁に電話してきたのはどういうことか。「こんなやつを国費で外国に行かせるのか」と抗議することで私の渡航を妨害したかったのだろう、な。
それって動物のためになるの?
結果として私としては痛くもかゆくもなかったわけなのだけれど、文化庁の担当者、東京都庁のどなたかが根も葉もない嘘のために事実確認の労をとったかと思うと笑えない迷惑行為である。
これを読んだらちゃんと謝罪しなさいね。「私でした。嘘ついてごめんなさい」と。

